ちいさかった頃、
父は庭にたくさんの果樹を植え、
週末はその手入れをするのを楽しみにしていた。
庭のぶどう棚にはカナブンが躍り、
その脇で手作りのブランコが揺れていた。
父は南房総の農家の次男坊。
新興住宅街のその家は、
彼の価値観が植えられていた。
彼の望郷の思いは、
いつのまにかわたしに植えられていたらしい。
不惑を迎える2003年春。
結婚11年目の相手の実家は農家で長男坊。
まちの核家族で何不自由なく育ったわたしに
北関東の山の風は強く冷たいけれど、
自分の中のどこかが、
これでいいと、いっている気がする。
父が何の前触れもなく倒れる2週間前、
娘の初節句を群馬で祝った。
田んぼの畦で採ったよもぎで義母が作ってくれた
濃い緑のよもぎもちを、
それはそれは嬉しそうに頬張っていた父の姿を、
忘れない。
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