ポップンミュージック
初めの出会い。『音ゲー』というものに、興味を惹かれる。
しかし自分はリズム感とは無縁の人間。当時は格闘系ゲーム……『格ゲー』畑の人間ということもあり、高額なプレイ料金も一つの壁だった。遠巻きに上手い人の『演奏』に聴き入っていた。
後にゲームは出来ずとも、サントラを購入。ポップンの地平に足を踏み入れる。
その後人気のないカラオケのロビーでポップンを発見。今この時ならば、と200円を投じ挑戦するも、一曲目『ポップス』にて撃沈。適性のなさに打ちのめされる。
ポップンミュージック2
音ゲーオフの誘いを受けるも、自分はまったく音ゲーの出来ない身。いや、あるじゃないか、ポップンという音ゲーが! 時はすでにポップン2フィーバーの過ぎた後。次回作への期待が高まる時期。プレイ料金も下がり、人の波も引いている。練習するなら今しかない!
十五回目の挑戦の果て、『ポップス』初クリア。手の平に初めて舞い降りた曲。
その後もちろん家庭用ポップン2を購入。一歩ずつポップンの地平に足跡を記していく。家庭用のコントローラーに性能の限界を感じ、真・ポップンコントローラーの作成を決意するのもこの時期であった。
ポップンミュージック3
ようやくポップンの基礎が固まりつつあった時、ポップン3は満を持して誕生。いきなり大きく開けたポップンの地平に、興奮を抑えることが出来なかった。
一部の上級曲やハイパー曲にはまったく歯が立たないものの、九つのボタンの位置を完全に脳が把握。エキサイトやランダムに夢中になった。また、コンボシステムの採用により「とにかくクリアしたい」から「クリアの上に、さらにハイスコアも狙いたい」という気持ちが芽生える。綺麗にGREATを叩き出す……それはいつしか強烈な羨望へと変わっていった。
一番無心に叩き、一番点数に貪欲で、コンボとコンボの間に虚ろを生じさせる『GOOD』や『BAD』を病的に恐れていた時期である。
「自分でもポツプンをしてみるが、どうしても隙間が生じる。コンボとコンボの間に厭なものが入り込んでしまうじやないか。なぜみんな、そんな隙間だらけで平気なのだ。
叫びさうになつた」
「BADは厭だ。BADは虚ろだ。BADが混じると、そこから虚ろが生じる。叩いているだけで不安がぞろぞろと肥大して来て居ても立つてもいられない。脳髄が肥大して鬆が出来さうだ。一秒たりとも我慢がならぬ」
よっしーとポップンの歩み・第四話「約束」より ▼
家庭用ポップン3の発売直前に、真・ポップンコントローラーがロールアウト。細部の完成度は低いが、自作ポプコンオーナーの一人となる。
ポップンミュージック4
ポップン4の稼働日にあわせて、『よっしーのポップンミュージック』開設。
そして新オプション「ハイスピード」との出会い。ハイスピードをかけると、オブジェクト(ポップくん)の間隔が開いて、スピードにさえついていけば格段に叩きやすくなる。ハイスピードというブースターを得て、私はポップン4の地平を猛烈な勢いで加速していった。
ポップン4には1〜4の曲がまとめて収録してある。時折旧曲に立ち戻ったとき、確かに昔よりもスコアも伸びたし、コンボも繋がるようになっていた。
純粋に、嬉しかった。
ハイスピードの力も加わっていたことには、気付いてはいなかった。
それでも、一部の上級曲やハイパーの壁を越えることは出来ない。何が自分に足りないのか。歯がみする自分。
ポップンミュージック5
満を持して登場したポップンの新作。次々と登場する新曲、新譜面。ポップン4で得た「加速」もここに来て勢いが減少した。そして、あたりを見回す余裕がようやく生まれる。
基礎が、基礎が出来ていないまま、ハイスピードという便利な道具で「なんとなく」ここまで駆け抜けてしまった。もうこれ以上は……誤魔化しがきかない。
ノーマルスピードに戻ろう。
もう一度、ゼロからスタートしたい。ここよりもさらに高みを目指すのならば、まずは実力の底辺を広げなければ、これ以上は高く積み上がらない。もがきながら、あがきながらノーマルスピードへの回帰を果たした。一曲死にも、ポップン2以来だったかも知れない。
この頃から、真・ポップンコントローラーを用いて家庭用ポップン3や4でノーマルスピード、ハイパー曲の本格的な練習が始まった。
「ポップン3のハイパーに、全部の基礎があるから」
その人の言葉を信じ、もう一度自分のポップンを再構築していった。
「ノーマルスピード……等速でクリア出来て、初めて体得。クリアはもう通過点でしかない」
「もう、スコアとコンボでしか語れないポップンはやらない」
そういえば、クリアやハイスコア、コンボにこだわっていた自分は、いつからこんなに小さくなったのか。ハイスコアが出れば依然嬉しいし、コンボが繋がれば依然気持ち良いのに、いつからこんなに小さくなったのか。
ポップンミュージック6
大きな変化と進化を遂げたポップンミュージック。それはすでに『ネオ・ポップン1』と言えるほどのものであった。ハイスピードはデフォルトで四倍速までに対応し、譜面は加速度的に密度を増していった。無論、ポップン6に於いても等速で挑み続けていたが……何時だったろうか。この、転落感を感じたのは。崖を登っているときに、抵抗無く手元の岩が崩れ落ちたような……あるいは、高速で回転する物体にしがみついていられず、はじき飛ばされたときのような、この気持ちは。
あぁ、そろそろついていけない。
かつてはクリアできない曲など、二、三曲であったがここに来て「クリア出来そうもない曲」に突き当たることが非常に多くなった。そう、とうとう私は、ポップンの方に振り落とされたのだ。
こう思う気持ちの根本には……クリア、スコア、コンボに固執する自分がいるに相違ない。そうだ、そういう自分は前よりも小さくなっただけで、死んでなどいない。間違いなく、自分の奥で息づいている。心のどこかでそれらに根がまわり、養分を吸い上げている。初めの、無心に叩いていた自分はどこに埋もれてしまったのか。
好きな曲がありました。お気に入りのキャラも居ました。
でも、あぁ、なんだろう。手が、手が届かないんだ。
ハイスピードを使わない、というのが大きな足枷になっているということは、もう気が付いている。
では、なぜハイスピードを使わない? ポリシー? スタイル? いや、実はそれは後から付け足した理由だ。
本当は、気が付いてしまったからだ。ポップン5をプレイしていた……あの時、あの時に! ほんのはずみだった。ほんのちょっとだけ、自分を客観的に見てしまったんだ。ハイスピードを入れて、簡単な方、楽な方へと転げ落ちてゆく自分を見てしまったんだ。恐ろしかった。恐ろしかったんだ! いっそのこと、気が付かないままならどんなに幸せだったか。
そしてとうとう、私はポップンの方から振り落とされてしまいました。
崖から転落……あるいは、高速で回転を続ける物体からはじき飛ばされ、大地にしたたかに打ち付けられる。混濁した意識の中、中天の太陽に向けて手の平をのばしたときのようなこの気持ち。
……馬鹿だなぁ。こんな、こんなボロボロになるまで気が付かないんだから。
大地に倒れ、自分の動きが止まってから、初めて気が付く。
楽しいポップンは、どこですか。
ポップン6から転落し、大地に打ち付けられて、とうとうここに来てポップンの地平を駆け抜け続けてきた自分の動きが止まった。頭と背中が温かい。血でも流れているのか? そのうちに雨が降り出す。ちょうどいい。今日まで休み無く駆け続けてきたこの体を冷やしてくれ。流れる血を洗い流してくれ。ここまで……よくやったよ。
まぶたが閉じた後、そのまま意識は暗闇に転げ落ちた。
そして、気が付いた。
あぁ、まだ生きている。ポップンをやりたいという気持ちがある。
ゆっくりと体を起こし、こわばりかけた体を少しずつ伸ばす。雨はもう止んでいる。雲の切れ間からは、追い駆け続けた太陽が、依然とまったく変わらない距離で輝いている。
「虹……虹だ!」
ポップンミュージック7の虹だ。ポップン7の地平の彼方に、虹が架かっている。
まだ足元はふらついているが、再び歩き始めた。
この地平の、あの虹の向こうにはきっと何かがあるはずだ。
再び歩き始める。駆けるほどの力は無いが、歩みは止めない。
そう、歩みは止めない。
よっしーのポップンミュージックは、きっと地平の彼方にあるのだから。
<了>
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