第一話・ポップンミュージック初プレイ

 ポップンミュージック1がゲーセンに登場したのはいつの頃だったでしょうか。
 私が初めてそのゲームの存在を知ったのは、ただいま絶賛休刊中のアーケードゲーム情報誌『ゲーメ○ト』であったと記憶しています。読者交流欄である『ゲーメ○トアイランド』にて、ポップンミュージック1のプレイレポが載っていたのです。
 残念ながらその号は手放してしまいましたが、内容はよく覚えています。ポップンを初めて見た三人の男たちが九つのボタンを三つずつ担当し、個々人の主義主張を戦わせながら選曲をし、三人でクリアしていくという内容でした(多人数プレイはポップンでは一般的です。むしろ推奨)。
 一曲目は『ポップス』。馴れないゲームに三人で大騒ぎ。状況が手に取るようにわかります。
 二曲目は『ダンス』。仲間内に金髪マニアがいる模様です(笑)。
 三曲目は『アニメヒーロー』! なぜかこの曲は音量が大きい! コテコテの歌詞に熱唱ヴォイス。三人の男たちはまわりの視線と大量のポップくんと戦いながら、どうにかクリアに成功しました……。
 原文がここに無いのが悔やまれます。その時私は、心底「楽しそうだ」と思いました。

 程なくして、ゲーセンで本物のポップンを見ることが出来ました。
 遠巻きにして画面を見る。あぁ、あれが『ダンス』の譜面か。前半の山場を越えればクリアは安定するようだ。キャラは思いの外表情豊かで、ビートマニアとはまた違った意味で見応えがありました(無論、ビーマニも今日まで見るだけの人でした)。タイトルに現れるネコとウサギもいい感じ。誰もプレイしていないとき、筐体に近づいてみました。
 「1プレイ……200円!?」
 私のゲーセンにおける金銭感覚というのは、あくまで1プレイ100円です。私はもともと格闘ゲームの畑の人間であります。高い。正直な第一印象でした。しかも自分は決してリズム感がある方ではないし、楽器の演奏も得意ではありません。目の前の九つのボタンはどの楽器にも類さない、いわばまさにゲームに特化したデバイスであって、楽器のたぐいの得手不得手は問われないはずです。……が、私は静かに筐体からさがりました。
 手に負えない。
 タイトル画面でニャミとミミが踊り続けていました。

 それから筐体の前に立つことは無くなりました。
 ゲームそのものが嫌いになったわけではありません。むしろ気になり続けてきました。それでも「順番待ちをしている」と思われないように、筐体に2メートル以上近づくことはありませんでした。
 近くて遠い、よっしーとポップン。あぁ、『アニメヒーロー』を軽々とクリアしている兄さんがいる。
 なんと、うらやましい。

 時は流れ、ポップンミュージック1のオリジナルサウンドトラックが発売されました。
 もちろん発売日と同時に購入です。あれほど恋いこがれた曲が今手元に。かなり長い間CDディスクチェンジャーに入りっぱなしになっていました。
 『ポップス』に聴き入り、『J-テクノ』に鳥肌が立ち、『ダンス』の鋭く澄んだ音を楽しみました。
 いつか演奏してみたい。プレイすることはなくとも、常にそう思い続けていました。

 プレイする機会は不意に訪れました。
 友人とカラオケに行ったとき、ロビーの片隅にポップンの筐体を見つけたのです。奇しくもロビーには人がいません。無人のロビーで、筐体と対峙する私。これは……。
 友人を呼び止める。
 「……ちょっと待っていてくれ」
 ポケットの中で小銭を掴んで言いました。

 200円を取り出し、筐体を至近距離にとらえる。一枚、二枚。100円が重い。
 赤いボタンを叩く。確か、外側のボタンでキャラチェンジが出来たはずだ。程なくして黄色のボタンでキャラが変わっていくことを理解した。キャラは……以前から気になっていたウサギを選ぶ。
 どの曲をプレイするかがもう決まっていました。『ポップス〜僕らは完璧さ〜』です。

  perfect 僕らは 完璧なのさ
  いつかは世界中の人へ誓うのさ
  perfect 僕らは おんなじなのさ
  全てはこんなふうに音でならすから

 好きな歌でした。何度も聴いてきました。自分にリズム感が有ろうと無かろうと関係ない。この歌は体の一部となるほど聴いてきた。なんぞ恐れん。ゲームのシステムはよく理解している。曲さえわかっていれば、叩くことも可能であろう。いざ! Let's pop'n!

 ポップくんが画面上から落ちてくる。判定ラインに合わせて、いざ叩く。
 一つ、二つ。ポップくんをとらえよ。まさに聴き馴れたリズムで落ちて来るぞ。……いかん、早い。ボタンの上下が違う! ラインとポップくんが合わない!

  さあ perfect 僕らは 完璧なのさ
  いつかは世界中の人へ誓うのさ 本当さ

 最後の「でてんっ」だけ綺麗にGREATが出たことをよく覚えています。ゲージはゼロ同然です。
 これで、終わり。
 あらためて200円の重さが身にしみました。画面の左側でウサギがやさぐれています。
 言葉が出ません。ふいに、まわりを見渡す。
 「……みんな、どこ?」
 カラオケ館のロビーは広く、静かでした。

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