第三話・スタイル(前編)

 このコンテンツはそもそも、よっしーがポップンに関する昔話にうつつを抜かし、孫に嫌な顔をされることを最終目標に設定しております。本格的に昔話が始まる前に、ポップンミュージック5がリリースされてから一ヶ月経った今の出来事について少し書いてみようかと思います。
 いうなれば、ちょっとしたインターバルです。
 テーマは、「ハイスピードを入れるか否か」。

 さて、ポップンミュージックなるゲームには、いくつか隠し要素が用意されています。全ての曲をクリアしても、まだまだ楽しめるように用意されているおまけというか、制作者側が用意した小粋なエッセンスとでも言いましょうか。クレジットを投入し、スタートボタンである「赤」ボタンを押すときに、他のボタンを押しっぱなしにしておくとヒミツノモード(公式サイトの表現)で遊ぶことが出来るのです。

 ●両端の白を押しながら赤で決定……ランダムモード
  ポップくんがランダムに落ちてきます。プレイするたびに新しい譜面となるわけですね。
 ●両方の黄色を押しながら赤で決定……ヒドゥンモード
  判定バーの手前でポップくんが消えてしまいます。記憶力とリズム感が試されます。
 ●両方の緑色を押しながら赤で決定……ミラーモード
  ポップくんがいつもと正反対の配置になります。右手と左手を均等に鍛えることが出来る?

 そして、ポップンミュージック4から新たなモードが追加されました。
 それが「ハイスピードモード」です。

 これは両方の青色を押しながら赤で決定することにより選択できるモードで、ポップくんの降ってくる速度が二倍になります。ところが、このモードは他のモードに比べて多少毛並みが異なりました。
 ポップン1から存在したランダム、ヒドゥン、ミラーは基本的にプレイの難度を上げるものでありましたが、ハイスピードはむしろ「譜面を構成するポップくんとポップくんの間隔が開き、同時押し等が見やすくなる」という「おじゃま」であり、むしろ「おたすけ」の要素を持っていました。
 ポップン4がリリースされ、ハイスピードは瞬く間に広まっていきました。一方で「速いとかえって見えにくい」「本来のポップンの姿ではない」と頑なにノーマルスピードポップンを選択し続けたポッパーも居ました。そうです。ここにハイスピイレール文明とイレーヌ文明の抗争が……特に起こることは無く、ハイスピードは簡単に市民権を得ました。
 よっしーもまたハイスピ派の一人でありました。ポップン3の時にあれだけ苦労したあの曲の譜面構成がこんなにも見やすくなるとは! クレジットを投入し、何の疑問も抱かずに両方の青を押しながら赤を押す。ごくまれにノーマルスピードを選択しているポッパーを見ると、脳裏にうっすらと「硬派」という言葉が浮かびます。ですが、それだけでした。
 ポップンはフリースタイルゲーム。ハイスピ派とノースピ派は、特に対立することなく、静かにポップン4の流れの中に飲み込まれていきました。

 時は流れ、十一月十七日にポップンミュージック5がリリースされました。もちろん今回もランダム、ヒドゥン、ミラー、ハイスピードの各モードは継承されています。
 ポップン4のリリースと同時にポップンサイトを立ち上げ、非常に多くのポッパーとお知り合いになったよっしーでありますが、ポップン5がリリースされてから、自分の回りに奇妙なムーブメントを感じました。
 「どういうわけか、ポップン4の時でも自分の回りにはノースピ派のポッパーが多い」
 「どういうわけか、ポップン5からノースピに戻したという人が多い」
 これはあくまで「よっしーの近辺」という、非常に狭い範囲でのサンプリングの結果であります。事実、ハイスピードを入れて叩くポッパーは依然たくさん居ます。ですが、この環境の変化は少しずつではありますが、よっしーの心に揺さぶりをかけました。
 今日まで、当たり前のように変わったことをしていたのではないか。

 繰り返して言いますが、ポップンはフリースタイルゲームです。
 「露骨に難度が下がるのでハイスピは入れない」「ハイスピは譜面が見やすくなり、気持ちよく楽しめる」「ただ単にハイスピは見えにくい」「ノースピが基本ですし」
 いずれも正しい意見です。どれが正しいというわけではなく、これはもうスタイルの問題なのです。懐石とフレンチ、どちらが料理として正しいか、という論争はナンセンスです。ハイスピかノースピか、という話もこれによく似ています。問われているのは、スタイルです。
 よっしーのスタイル……それは依然ハイスピードであります。
 サイトの自己紹介のページにいちいち書いていませんが、嫌いな言葉の一つに「付和雷同」があります。「自分の周りの人に、ノースピ派が多いから」。そんな理由でノーマルスピード派に転向したりはしません。

 ポップンサイトを立ち上げてみたら、以外にも地元にポッパーさんが居ることが判り、ゲーセンでもよく顔をあわせることが多くありました。オフラインの友人の中には本当にポップンを、そもそも音ゲーをする人が居ないので、こういう出会いを多く体験できたのは本当に行幸であると思っています。
 ポップン5がリリースされてから一週間の間、日参ペースで一人のポッパーと会い続けてきました。
 彼はポップン1の頃からずっとノーマルスピード派。しかも片手ポッパーです。なぜ片手でポップンをやるのか。あんなに大量に降り注ぐポップくんを、なぜ片手で拾うのか。両手を使った方が楽ではないのか。なぜ血を流してまで、片手で叩くのか。
 すべてナンセンスな質問です。片手で叩くのが、彼の「スタイル」なのです。
 ゲーセンの片隅でポプ談義が出来るのは、小さな幸せでありました。その時にかねてから胸の中でわだかまっていた、ハイスピードの使用について話をすることもありました。

 「今日までずっとノースピ派なんですよね?」
 「えぇ、自分は単にハイスピが駄目なだけなんで」
 「ノースピの人ってあんまり見かけませんよねぇ。でも、自分の知っている福岡ポッパーさんは何故か全員ノースピですね」
 「えっ、福岡ってノースピの聖地とか」
 「いやさ、そりゃ判りませんが」

 もう一度ポップン筐体の前に向かうよっしー。クレジットを投入した時、不意に内側の言葉が漏れる。
 「5からは……ノースピでやろうと思うんですよ」
 「ホントですか? いやぁ、ノースピやってる人見ると嬉しくなるんで。後ろで踊り出しますから気を付けて下さい」
 意外なほど屈託のない笑顔で返された。ノースピ派が少ないということを、いまさらながら実感した。両方の青を押さずに、そのまま赤を押す。ゲーム、スタート。ノーマルスピードで、比較的難度の低い曲を選んでプレイしてみた。この体感速度は、久しぶりだ。だが、ポップン3の頃は、皆この地平に立っていたというのは、揺るがない真実の一つだ。
 お気に入りの、『フレンチポップ』や、『ソフトロック』などを叩いてみる。音が鳴るところを、気持ちよく、素直に叩ける名曲であると思っている。耳で曲を捕らえ、指先でリズムとして出力。ノーマルスピードでも、問題なくクリアできた。

 ゲームが終わり、今度は意識して内側の言葉を出してみる。
 「……やっぱり、5はノーマルスピードでやろうと思います」
 「ホントですか!?」
 「えぇ」
 「ハイスピ、出来なくなりますよ」
 真顔だった。
 「いいんです」
 意外なほどの、即答。

 スタイルを決めるものは、常に自分の意志であるはずだ。


 後編へつづく