第三話・スタイル(後編)

 ポップン5からはノーマルスピード。そう、それが5からのよっしーのスタイル。さっそくその日からノースピポップンに切り替えました。青ボタンを押さないままスタート。まだ違和感を覚える。
 ……思い出した。ポップン4の時にも一度こんなことがありました。ハイスピに頼りすぎたのではないかという考えが一瞬頭をよぎり、ノースピでハイパー『パッション』を叩いてみた時のことです。結果、ポップンを始めて久しぶりの一曲死に。まるで同時押しが見えませんでした。思えばあれが最後のノースピプレイであったと思います。
 ですが、ポップン3の時は皆同じ地平に立っていたはずです。まずは簡単な曲から目を慣らしていきました。『ニューエイジ』、『アレグリア』……『US-ダンスポップ』を落としたときは、さすがにヘコみました。

 試行錯誤。目に頼れないのならば、耳で「聴いて」タイミングを割り出そうともしました。同時押し見切りの練習曲としてかなり『ロックオペラ』を叩きました。スピードが遅く、同時押しが多く混ざっているので、練習曲としては最適です。BADは5まで減りましたが、まだまだ削るところはあります。
 一週間ほどノーマルスピードで叩き、ハイスピとノースピの境界線がはっきりと見えました。
 ポップン5からは曲の難度ゲージが細分化され、以前にくらべてかなり正確に難易度が表示されています。ハイスピードを入れれば難度23(『アニメヒロイン』や『パラパラ』のハイパーなど)の曲まではクリアできましたが、ノーマルスピードでは難度22(隠し曲の『ポジティブR』が確か22でした)までは一応クリアできました。
 意外にも綺麗に出来る、出来ないのラインが引かれました。と同時に、ハイスピとノースピとでほとんど差がない、と言うのにも驚きました。一筋の光。思っていたよりもいける。そして、想像よりも高い壁。一応難度22までは平気と言っても、変則的な同時押しが続く『センタイ』(難度19)やラストフレーズの処理が安定しない『ミュージカル』(難度21)はまだまだ鬼門でありました。
 あと一つ、なにか飛び越えないと安定しない。

 その後も新小岩にて、何度かノースピ片手ポッパーさんに質問するチャンスに恵まれました。
 ちょっと疑問に思ったのが「プレイ中どこを見ているか」。ファミコン全盛期、テレビで「ファミコン名人は画面のどこを見ているか」という内容で眼球の動きを測定する機器を顔に取り付け、シューティングゲームをプレイしてもらう、というテレビ番組が頭の片隅に引っかかっていたのです。果たしてノースピで出来る、出来ないの境界線はどこにあるのか。ヒントを得るためなら何でも訊きました。

 「あの、ポップンするとき、画面のどこを見ていますか?」
 「いやぁ、自分は完全に目押しなんで、もう判定バーしか見ていません」
 目押し……いきなり苦手分野だ。
 「判定バーねぇ……。あれって二本あるじゃないですか。上の赤いラインと下の……」
 「あぁ、上の赤いラインが判定バーです」
 そこから間違えていたらしい。
 「よっしーさんはどこを見ています?」
 「画面全体」
 確か、ファミコン名人もそうだった。
 「それで同時押しはですね、こう……ポップくんに横串が刺さっていて、それがそのまま落ちてくるのを見ている、というか」
 「あぁ、わかるわかる」
 第三者にはどこまで通じているのか。

 その後、数人のノーマルスピードプレイヤーに同じ事を訊いてみましたが、意外にも答えは同じ、「判定バーしか見ていない」。なにか自分の知らないところで奇妙な法則でも働いているのか。
 せめて、画面にグリッド(横罫)が引かれていればいいのに。ポップン5ロケテスト時には、フリー2モードを選択すると、譜面にグリッドが引かれて非常に同時押しが見やすくなっていたのを覚えている。ただ製品版ではそれは無くなってしまった。
 結果、やり込むしかないのか。

 ハイスピードを入れている人のプレイで、譜面の構成を勉強する。……やはり譜面が見やすくなっている。間隔が開いた譜面を、右脳的に一つのイメージとしてとらえる。あれは一つ押し、あの二つは同時。画面全体を見て、譜面を指先で再現していく。ノーマルスピードの時はどう対応したらいいのか。
 判定バーしか見ていない……横にグリッドさえ引かれていれば……。

 いや。
 横にグリッドならもう引かれている。判定バーがいわゆる横グリッドじゃないか!
 「もう判定バーしか見ていません」
 リフレインする、あのセリフ。
 そうか、判定バーに触れようとするポップくんだけ叩けばいいんだ。同時押しの見切りだって、判定バーをガイドラインにすれば簡単に判るはず。譜面をイメージとしてとらえようと視線が画面の上の方に行っていたが、ノースピではかえって下を見るべきだった……!?
 自分の番になり、クレジット投入。
 さっそく画面の上の方を見ずに、判定バーのみ視界に入れる。脳が画面処理の方法を変えた為、少し違和感を覚える。だがこの感覚、悪くない。脳がストレッチしているようなものだ。そう、ノースピで叩くためには、ここから変える必要があったのでは!?
 ぎこちなくも判定バーをガイドラインに、譜面の構成を水際で読みとる。
 簡単な曲とはいえ、これまでとまったく異なるルーチンで脳は譜面の解析を始めていた。心地よい脳の回転感。そう、今こそノースピ仕様に体が動き出した。ポップン3の時に気が付かなかったやり方で、今自分は叩いている。
 「見える……私にもポップくんの動きが見えるぞ!」
 奇妙な高揚感。これまでとは違う、確かな前進。
 「ララァ、私を導いてくれ!」
 それはちょっと違うだろ。

 こうしてよっしーのノーマルスピードの歩みは、ようやく本格的にスタートしました。
 現段階でも、難易度22が限界点です。ハイパー『パラパラ』はやっとゲージ半分、ハイパー『アニメヒロイン』はほとんどゲージが残りません。『センタイ』も『ミュージカル』も安定していませんが、ようやくノーマルスピードのスタートラインにちゃんと立つことが出来ました。
 むしろ、5から新たなスタートをきったようなものです。多少の遠回りは覚悟の上。自分の選んだ道でしか見つけられないものもきっとあることでしょう。
 一番大事なのは、自分で決めた、ということ。そう、これが「よっしーのポップン」。自分で決めたことなら、胸を張って言える。

 次回から昔話に戻ります。
 そう、おそらくもっとも多くの人に愛されたポップン、ポップン3について思い出してみようか。

 後編・完

ある意味、これも「スタイル」に関する話です